イノベーション・ドライバーズ   

 

 

プロダクツ競争力形成としてのDX戦略     2020.4.14                                                                                        氏家 豊 

  ここでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)化を次のように位置付けます。「製品・サービス(以下、プロダクツ)の顧客価値を、そのデータ価値連鎖に即して精緻化し積み上げることで高度化していくこと」。それは二つの意味を含みます。一つは「データ価値連鎖に即した顧客価値の積み上げ」、もう一つは「提供プロダクツの競争力形成」です。

データ価値連鎖に即した顧客価値の積み上げ 

 まず、データ価値連鎖(Data Value Chain: 以下DVC)の各段階を、一般的にも認知されている以下の4つで捉えます。そもそも、例えば製造工程をモニタリング・運用管理する場合、諸々現場の単体機器・装置系からデータを集め、保存・加工して、解析・分析を行って将来に向けた知見を得た上で、現場運用に戻すという流れは元々あります。

Ⅰ:単体機器・装置等のハードウェア、システム

Ⅱ:データの集積・処理、プラットフォーム化、エッジインフラ

Ⅲ:AI含むデータの汎用、専門解析ソフトウェア・ツール

Ⅳ:最終顧客(個人・法人)による消費、運用向けのサービス

  そして、企業視点でこれら4段階を考えた場合、現場シーンには、顧客側に加えて自社内もあり得ます。本稿では、プロダクツの競争力形成がテーマですから顧客側を想定しています。まず社内向けに作り込んでから本格外販していく場合も念頭に置けば、最終顧客向けのプロダクツ開発段階想定ということです。DX化の中核を、真の意味での顧客志向に置くか否かに関わる観点です。例えば、精密ハードウェア単体機器の場合、技術力自体が差別化要素であって、Ⅰの製品を直接Ⅳのお客様に持ち込むのが一般的かつ元々のビジネスモデルです。データ保存やデジタル処理を経ない、単体の技術主導による競争力形成です。

  他方で、敢えて「データ価値連鎖に即して」という場合、そのような単体機器・装置系から発生するデータを、自社そして納入先企業内で現場使い捨てせずに、残し集めて分析するという手間をかける。個々の現場知見同士の連携・相乗効果も狙います。同じデータに対して、違った視点・立ち位置の人間で共有し解析する。この過程を経ることで、よりきめ細かい、そして拡張性を増した顧客価値形成を目指します。自社工場で培ったシステム・経験を外販していくという場合が代表的ですが、その場合でも、そのようなメーカーと、ITインフラ構築・データ処理を本業とするICTベンダーとの連携部分は大きなウェイトを持ってきました。

プロダクツの競争力形成

  ところで、日本の経済産業省による定義では、DXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。つまり、「データとデジタル技術を活用」することがDX展開の前提であり、そこでの企業の競争力形成は、このDX的な①「顧客向けのプロダクツ高度化」と、②「自社における業務効率化・改革」の両面を含むということです。前者はそのまま、企業が顧客・市場に提供するプロダクツの直接的な競争力形成です。一方後者は、社内管理体制の強化に類する間接的な競争力形成となりましょう。企業内の組織で言えば、一義的には、前者がプロダクツ企画・開発・製造、顧客向け提供部門という意味で現業部門、後者が経営管理・間接部門に対応します。

  世界の好業績リーディング企業のプロダクツ内容をデータ価値連鎖視点で精査すると、確かにその中身は、上記の①ないし②、そして最強は①②双方のニーズ充足をプロダクツに落とし込んでいる企業群になっています。正に、最近のIoTトレンドが目指すのは、上記の意味での現業部門、間接部門の境をなくして、社内でのシステムつまりはデータ連係を前提とした、両部門・領域全体での一貫した業務モニタリング、制御、最適化、自動化、そして、諸々局面での予知的対応です。ここでいう「DX視点でのプロダクツ競争力形成」は、この①②双方を充たすモデルです。一部AIを含むデータ解析過程を経たプロダクツの高度化全体を指します。提供するハードウェア・システムに内包させる場合と、ソリューション・サービスとして独立で提供する場合とがあり、機器メーカー、ICTベンダーを通じて当てはまります。

 これらの関係を一覧にすると下の図表です。機器メーカー、そしてICTベンダーにとってのDX的なプロダクツ競争力形成内容をコア部分の2つを示しています。数百の米国欧州の好業績リーディング企業、周辺企業の展開事例を当たって見えてきたものです。なおここでのICTベンダーは、ICT基盤・クラウドインフラを自ら開発・構築してエンド顧客に提供するモデルを想定し、顧客のITシステムを開発受託するSI業務はITサービス提供というもう一つ別の概念になります。

 

図表 DX的なプロダクツ競争力形成

       a. 機器・システムの顧客価値高度化       b. ソリューション・サービス提供

機器メーカー 顧客向けの単体ハードウェア機器・シス      顧客の業務効率を高め競争力形成を促す手立て提供。

       テムにデータ解析・AIを付加して高度化図る      機器システムに内蔵し、または独立サービスとして

ICTベンダー  顧客向けのICT基盤に、同じくデータ解析・       同じく、顧客の業務効率を高め競争力形成を促す、

                     AI機能を付加してプラットフォーム化へ           ソフトウェアベースのソリューション・サービスとして

 

 いずれにしても、前記の経産省の定義にある①②を顧客ニーズ一般と見立てれば、そのニーズに全体で答える企業こそが競争力がある企業という関係にもなります。つまり顧客企業・市場側の「製品やサービス、ビジネスモデルを変革する」(プロダクツ高度化)とともに、「業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革する」(自社における業務効率化・改革)という両面ニーズに全体で貢献していく企業こそが顧客・市場から受け入れられるという、至極納得性のある姿が浮かんできます。

 
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