イノベーション・ドライバーズ   

 

機能・目的本位の人工知能(AI)-2     2016.10.1                                         氏家 豊

 

 前稿の「機能・目的志向の人工知能(AI)-Ⅰ」で、M&A事例を紹介しました。その中で、Googleによる汎用深層学習、人工知能(以下、AI)基盤会社であるDeepMind(例の囲碁で人間を破った英国ベンチャー企業)買収は、機能・目的本位というよりは、深層学習(Deep Learning)技術を駆使している分、汎用・全能AIを志向した動きです。Googleが、世界の自動車会社とは一線画して、一挙にハンドルのない完全自動運転車を追及する動きとの共通性を感じます。

 

 日本では、80年代に人型の第五世代コンピュータ開発に国を挙げて取り組みました。専門家の知見・経験をコンピュータに教え込む(入力・データベース化)ことで、コンピュータによる人間専門家並みの推論、意思決定を実現させることを目指しました。その系譜で、現在でも、あの“アトム”的な人型ロボット≒AIというとらえ方が一般的です。頭脳アルゴリズムも、最近は特にそうですが、人間が無意識にやっている学習モデルに則り、視覚、会話・読解等、つまり画像処理、自然言語処理などの能力をすべて備えることを目指します。もちろん、従来からの超高速計算能も含みます。特に、画像認識では、人間が幼児期から母親等を通じて学習・体得していくプロセスをなぞる手法を極限まで追求します。ここが正にディープラーニング(深層学習)技術の賜物です。

 その結果、特にこのディープラーニングの発想、技術を駆使して“人型“に仕上げることへの期待が再度膨らんでいます。日本で元々開発してきた、例えば癒し系ロボットへの導入です。分別や価値判断まで備えた汎用・全能コンピュータに至っては、正に”アトム“の世界、レベルです。人間を機能面で超える話題(チェスや将棋、囲碁など)や、人間の仕事に代替する領域が加速しそうであることをもって、人間存在をコンピュータが脅かす、超えるレベル(シンギュラリティー)議論にまで発展しています。この議論自体、米国から来た訳ですが、人型コンピュータに拘ってきた研究者が多い分、日本でもより注目度が高い論点です。

 以上を一覧にしたのが図表 「AIの開発マップ」です。縦軸が、従来からある構造化データに関するデータマイニングやビッグデータ解析主体のマシンラーニング(機械学習)、そして広い意味でこの機械学習に含まれつつ、より脳(ニューラル)機能を落とし込んだ進化形・先進領域であるディープラーニングをとっています。そして横軸は、これまで述べた機能・目的追及型のAI開発モデルと、将来的な汎用・全能を目指すAIモデルです。洋の東西を見回しても、前者が通常の事業対象領域(「テクノロジー」)であり、後者はより「サイエンス」的な色合いが強い科学技術的領域と位置付けできそうです。

 図表 AIの開発マップ

                   機能・目的追及AI(データ処理解析   汎用・全能AI(人間脳を模したAI)

 開発アプローチ→           IT領域)=通常のテクノロジーとして  =よりサイエンス的な色合いが強い

 機械学習のカテゴリー↓        取り組む「事業対象」領域          「学術研究的」領域

 

 深層学習以外の機械学習           大量高速でのデータ処理能を駆使             人間知識・知見の丸ごと入力・再現を

 (マシンラーニング)                 した、特定分野の数値やタグ付き             目指した第5世代コンピュータ開発が

                                                         構造化データ主体の収集・解析                代表的かつ象徴的

   

    深層学習            画像・音声認識、言語・文書理解       高データ処理能と深層学習手法による、

   (ディープラーニング)              等、非構造化データ向けを得意と             左記各機能全体の丸ごと体得・再現を

                 する機能・目的特化データ収集解析          めざす汎用・全能AIの追求

 

 

 冒頭で述べたとおり、AIのこの2つの立ち位置関係はあたかも、自動運転車において、(a)日本企業も含む世界の既存自動車メーカーが、自動運転という言葉も使いつつ、兎も角安全性が高い車、そこで差別化を目指すのに対して、(b)Googleやテスラーといった後発新興勢力が、ハンドルなしの完全自動運転車ということを始めから謳い、「レベル4」を追及する関係に似ています。前者が図表中の機能追及AI、後者が汎用・全能AIを追及する開発姿勢に対応します。

 ここでAIを、少なくとも事業視点で、サイエンスではなくテクノロジー開発として捉えた場合は、あくまで人間社会に資する具体的な目的・機能向けであることに説得力を感じます。つまり、ここではAIは、あくまで目的をもって超高速でデータ処理する、画像を認識する、人間の言語を聞き取ってコミュニケーションする、文章を理解する機械です。位置付け的には、全自動の家電機器類、飛行機や高速列車、MRI、レントゲン、携帯電話等々と同じです。医療であれば、がんや糖尿病などの成人病、心臓・循環器系疾患、肺炎・呼吸器系疾患向けなどの確度の高い診断「補助」です。そういうことであれば、「コンピュータがそう言っているから、まずはその線から・・」、という会話もそんなに不自然に思えなくなってきます。(注)

 前述のシンギュラリティー論は、目的意識、究極的には使命感を欠いた、見当違いな話にみえてきます。我々はこの部分をつい混同しがちです。以前なら、「本来、目的意識を持たないのがサイエンスだから」という面は強かったでしょう。だからサイエンス・フィクション(SF)です。それが今は、サイエンスとテクノロジーの境目は低くなり、前者から産業社会への直接的で素晴らしい影響力も益々高まっています。「大学発ベンチャー」という言葉こそが象徴的です。その結果、サイエンス次元の話か実テクノロジー段階の各論かの見極めは、ビジネス側から常にしっかり押さえておく必要があります。いまの過熱気味のAI議論では特にそれを感じます。

 そこさえ認識できていれば、コンピュータは益々人間機能を補い促し飛躍させていき、その結果、知的領域も含めて、その中でも特に労働集約的な部分から機能代替が進んでいく。それ自体は全く自然な流れです。その結果、現に人間に取って代わる職種が一層増えて行きましょう。それは予測のつく、それなりの時間をかけた「時代の流れ」というべきものとなりましょう。昔から繰り返されてきたように。

 そして、そういう話なら、完全自動運転車(というコンピュータ)でさえ、例えば高齢者向け、身体不自由者向けに、必要インフラを完備した特定の専用レーンや限定住空間での安全確実な移動確保ということで、市場ニーズも明らかです。その結果、そんなに遠くない将来、ところにより、特別レーン的な形で、ハンドルなしの「移動体」が、ウロウロしている時代が来るということかもしれません。Google等の自動運転車開発で培われた「レベル4」レベルの技術が、それこそ独り歩きしないで、何とか、既存の自動車メーカーとの技術融合も進めて、より安全な自動車に落とし込んで頂くことを願います。一部、Googleから、かなり米欧自動車メーカーに人材も移りつつある(引き抜き)ようでもあり、結果的にもそんな方向にもなって行きそうです。

 その場合、AI開発全般においても、かつての第五世代コンピュータで培われ、今も引き継がれている汎用・全能型AI向けの基盤技術研究の成果を、特定の機能・目的(超高速データ処理、画像認識、言語コミュニケーション、文章理解等)や課題・ミッション(安全移動、医療介護、効率製造、安全環境等)に絞って、さらに一層落とし込み、各々分野での具現化を加速させる。そんな方向性にもつながります。形状面、そしてデータ処理解析のアルゴリズムの両面で、むしろ人型には拘らない自由な取り組みも増えましょうし、事業化も進みそうです。

注: 医療におけるAI活用事例 (日本経済新聞2016.9.19)

 信州大学医学部の山本陽一朗講師らは東京医科大学などと共同で、乳がんで手術を受けた患者の組織の顕微鏡画像から、がん細胞を見つけ出すAIを開発した。がん細胞は核の大きさや形が正常細胞とは異なり、病理医はそれを手掛かりにがんを判別する。研究チームは、乳がん手術を受けた175人の組織の顕微鏡画像から、がん細胞から正常細胞まで、悪性度の異なる細胞を計200万個抽出した。このうち98%の細胞から核の大きさや形などのデータをAIに取り込み、乳がん細胞の特徴を学習。残る2%の細胞の悪性度を判定した。この作業を約100回繰り返したところ、がん細胞かどうか、がんの場合の悪性度はどれくらいかを96%の精度で判定できた。18年度までに技術を確立し、臨床での検証につなげたい考えだ。

 一方、大阪大学の三宅淳教授らは、がん細胞の見分け方そのものをAIが編み出す「深層学習」を用いた。シャーレの中で培養した正常な細胞と様々ながん細胞の画像を1000枚ずつAIに取り込んで、がん細胞の特徴を学習させた。別の培養細胞の画像100枚を解析させたところ、がん細胞と正常細胞を85%の確率で正しく識別した。

 

 

 

 

 
© SBF Institute. All Rights Reserved.